【ツアー報告】日本最大のガンの越冬地 伊豆沼と蕪栗沼 2016年11月18日~20日
(写真:カリガネ 撮影:高木信様)
バードウォッチングにはさまざまありますが、鳥だけでなく季節感のある風景を一緒に楽しめるものもあるのです。その代表が今回訪れる晩秋の伊豆沼・蕪栗沼でしょう。日本最大のガン類の越冬地として知られるこの場所には、今季9万羽ほどのガン類が越冬のためにやってきています。どこか懐かしさを感じる田園風景は一見の価値があり、そこで暮らすガン類がその風景に見事な味付けをし、これぞ日本の晩秋の風景という雰囲気を演出しています。ガン類の多くを占めるのがマガンですが、その中に少数のカリガネ、ハクガン、シジュウカラガンが混じっています。これにヒシクイを加えたガン類5種を主に観察することを目的にしたのが今回のツアーです。ただ、これら全てを探すことは困難であることから、その確率を少しでも上げるために小型車利用の7名限定としています。これにより徹底的に目的の鳥を探すことができるほか、大型車で起こりがちな交通障害にもならず、また鳥との距離を縮められるというメリットも生まれています。
18日、まずは東京駅から新幹線でくりこま高原駅に向かいました。この日は見事な快晴の中到着し、まずは観察機材の準備と昼食を済ませてから探鳥に出発しました。この日は午後だけの探鳥のためまずは観察が最も困難で出会うのに時間がかかるカリガネを探しに向かいました。到着した後は、各所に見られるマガンの群れを丹念に見て行きます。本来ならば探し出すのにかなりの時間を要しますが、この日はいきなり親子と思われる6羽のカリガネの群れに出会うことができました。光線も順光で頭部の形や嘴の色の違い、そして最大の特徴である金色のアイリングを見ることができました。しばらく観察した後は少人数の利点を生かしてじわじわと近づき、さらにじっくりと観察、撮影することができました。良かった良かったと安堵しながら次なるマガンの群れを見た時です。本来ならほとんどがマガンのはずですが、驚いたことに一群れのほとんどがカリガネという群れに出会うことができました。おそらく100羽ほどがいたでしょう。マガンの中からカリガネを探すのではなく、望遠鏡の視界の中がほとんどカリガネという驚きのシーンを観察することができました。あっという間に時間が過ぎたため急いで塒入り探鳥に向かいました。到着すると周囲ではコチョウゲンボウやオナガ、チュウヒが見られました。待っていると次第に空は赤く染まりはじめ、その中を次々にマガンの群れが帰ってきました。その光景も見事ですが迫ってくるマガンの声も迫力があり、次第に目の前の湖面がガンたちに埋め尽くされていくのを見つめながら17:00まで観察を続けました。
19日、05:45に出発して早朝の塒立ちを観察しに出かけました。天気予報はあまり芳しくなかったですが、早朝はなんとか持ちそうだとの予報でした。ただ現地は曇り空で肌寒く、ぱらぱらと飛び立って行くガンたちの姿は見られたものの、豪快に飛び立っていく迫力あるシーンを見ることはできませんでした。朝食のため一旦ホテルに戻った後はシジュウカラガンを探しに出かけました。ここは数年前からシジュウカラガンの群れが見られていて昨年も数百羽の群れが見られました。ただ、この日は地上採食するマガンの群れは見られるものの、その姿はなかなか見られません。やや時間をオーバーしましたがさらに範囲を広げて探してみると、ようやくマガンやコハクチョウの群れの中に混じる100羽ほどのシジュウカラガンに出会うことができました。ここでもまずは離れて観察し、その後は次第に距離を詰めながら観察しました。気がつくと小雨が降っていましたが、そのせいかガンたちはあまり警戒する様子はありませんでした。その後は一旦トイレ休憩をとり移動しました。途中の畑地ではハクガンが見られ、今回も純白の姿を車内からでもはっきりと見ることができました。まずは車を止めてどこから観察するのが良いかを考え、ひとまずやや高くなっている農道上から観察しました。雨のためどんよりとした空の下でしたが、成鳥ならではの純白の姿が美しく、しばらく観察することができ、その後は小型車利用の利点を生かして車内から観察しました。その後はちょうどお昼に近かったこと、またたまたま雨が強まっていたこともあり少々早めに各自昼食としました。昼食後も探鳥を続けましたが、雨が強まったせいか鳥の姿は少なく、こんな状況でないと立ち寄ることもないサンクチュアリーセンターに行ってみることにしました。久しぶりに訪れたため過去の記憶はほとんどなかったのですが、映像やパネルで伊豆沼の一年が紹介され二階には望遠鏡もかなりの台数揃っていました。そして最後はカモ類やコハクチョウ、オオバン、ユリカモメなどを観察して終了しました。
20日も同様に05:45に出発して早朝の塒立ちを観察しに出かけました。天気予報は晴れとのことでしたが思ったよりも雲が多い朝でした。現地は視界も良く早くもマガンたちの騒ぐ声で満ちていました。日の出の直前には空が真っ赤に焼けましたが、残念ながらその後は雲に覆われてしまい、マガンたちのまとまった飛び立ちは見られたものの日の出に絡めて観察することはできませんでした。一旦朝食のためにホテルに戻り、再度出発となりましたが、ここまで目的種を観察することができていたことから、まずはここまで行っていない化女沼に向かいました。ここでは騒がしく動きまわる複数のカケス、草の実を食べるベニマシコ、ほかにもシジュウカラやジョウビタキの姿があり、湖面にはオカヨシガモ、コガモ、カンムリカイツブリが浮いていました。その後は再びシジュウカラガンの群れに出会うことができ、またまたじっくりと観察、撮影を楽しみました。さらにはハクガン成鳥とも再び出会うことができ、今度は太陽光を受けて輝くような姿が見られました。一旦、各自昼食とした後は周辺を歩いて探鳥しました。この日はどういうわけか周辺の畑地にマガンの群れが数多く見られ、夕方の塒入り時のような賑やかさでした。ここでは間近にヒシクイの姿を観察したほか、泥地を歩きながら餌を探す、ハマシギ、ツルシギ、タゲリの姿があり、カモを狙ってか、枯れ木にオオタカの若い個体が止まっていました。またアシ原上を3羽のチュウヒが舞い、珍しくハイタカの姿も見られました。思いのほか時間が押してきたため最後は沼南部の池に急ぎました。ここでは先週、珍しくホオジロガモが見られたのですが、この日もオス、メスが揃って登場して間近にその姿を見せてくれ、カイツブリ、ハジロカイツブリの姿もありました。そして最後はホテルに向かう途中の畑地にいたマガンの群れを観察しました。するとその中にハクガン幼鳥が1羽混じっていて、最後の最後にハクガンの別個体を見る幸運もありました。
今回は中日の天候が悪かったですが、初日に見事な夕景を見ることができ、早朝に関しては見事な日の出の中とは行かなかったものの、まとまった数で飛び立っていくマガンたちの姿を観察することができました。また、目的のガン類5種、マガン、ヒシクイ、ハクガン、カリガネ、シジュウカラガンを2日目にして観察することができました。特にカリガネは100羽ほどの群れを観察する幸運があり、言うまでもなく過去最大数を見ることができ驚かされました。またハクガンは成鳥、幼鳥ともに観察することができ、シジュウカラガンもかなりの個体数が見られました。今回も少人数の利点を生かしてガン類との距離を縮めることができたのも印象的でした。ほかにもコチョウゲンボウ、オオタカ、ハイタカ、チュウヒといった猛禽類も見ることができ、ガン類以外も楽しめた3日間でした。皆様お疲れ様でした。
石田光史