【ツアー報告】小笠原 硫黄島3島クルーズとメグロの島・母島 2016年5月21日~26日
(写真:アカオネッタイチョウ 撮影:須﨑明男様)
10年以上の歴史がある小笠原海運特別航路、硫黄島3島クルーズは過去、7月、9月、10月に企画されてきましたが、今年は新造船就航に伴う運行日程調整から5月に企画されました。これは初めてのことであり、また現行の2代目おがさわら丸での最後の硫黄島クルーズとなります。時期的に初ということから、海鳥の出現状況をさまざま予測する楽しみも増え、おかげさまで今回も海鳥好きのお客様36名様と共に出発することになりました。
21日、集合時間の09:00には皆様ご集合いただき、乗船チケットと資料、そして海鳥観察には欠かせないトラベルイヤホンを配布し09:30から乗船開始しました。お客様が多い割には順調にスケジュールをこなすことができ、おがさわら丸は予定通り10:00に東京竹芝桟橋を出航しました。お天気が薄曇りだったことからデッキは肌寒く、やはり7月のように軽装での探鳥は不可能でフリースや雨具を羽織っての探鳥でした。東京湾内を出るまではウミウ、ウミネコ、コアジサシ、アジサシを見ながら進みましたが、東京湾を出る13:00頃からはオオミズナギドリ、ハシボソミズナギドリの姿が見られるようになってきました。13:20には早くも着水している2羽のクロアシアホウドリが見られ、13:40には4羽のクロアシアホウドリが着水していました。14:00を過ぎると海上がやや荒れてきてオーストンウミツバメの姿が見られるようになってきました。さらに三宅島近海では肌寒くなりましたが、トウゾクカモメ、クロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメが出現し、お馴染みのカツオドリの姿もありました。さらに八丈島が近づいた17:00にはオナガミズナギドリの姿も見られ18:00に観察を終了しました。
22日、日の出は04:40ですが03:30には起床して準備にとりかかりました。薄曇りの中で日の出を見る状況でしたが天気は次第によくなってきました。早朝はオナガミズナギドリ、ハシボソミズナギドリの姿が目立ち、早くもアカアシカツオドリの若い個体がマストに止って楽しませてくれました。また05:00頃からはシロハラミズナギドリの姿も見られようやく小笠原に近づいてきたことを印象付けてくれました。早朝はデッキ前方は閉鎖されていますがバードウォッチャーの熱意に押されたのか、予定よりも2時間近く早い06:15に中間柵がオープンしました。すると07:10に早くもアカオネッタイチョウが飛び、07:15にはコシジロウミツバメ、08:00を過ぎると名物のカツオドリの乱舞が見られ始めました。09:00近くになるとアナドリの姿が目立ちはじめ、09:15にはマッコウクジラを見ることができ、おがさわら丸は予定よりもやや早い11:20に父島二見港に着岸しました。
着岸後は倉庫に荷物を預けてから再集合。父島での数時間は基本的にはフリータイムですが、今回は南島へのクルーズを企画しました。そのため各自昼食後、ご希望の皆様と出発しました。この日は驚くようなベタ凪でとにかく快適なクルーズでした。南島では上陸班とクルーズ班に分かれ、私は上陸班として繁殖中のカツオドリやヒロベソカタマイマイの半化石、扇池を楽しみました。また陰陽池ではヒドリガモとコガモの姿があり驚きました。その後17:00に再集合して我々独自の硫黄島3島クルーズの説明会を行い、それぞれの島での観察位置、目玉となる種、さらにはそれらの特長や識別点に至る解説を行い、18:00からは全体の出発式が行われ19:00におがさわら丸は178名を乗せて南硫黄島へ向けて出航したのでした。夜には船内イベントが開催され、私も楽しませていただきました。
23日、バードウォッチャーの朝は早く03:00起床、03:30には外部デッキ前に列ができるほどの大盛況。そしてようやく04:30に外部デッキに出ることができました。7月であればムッとする空気と共に強烈な結露に見舞われるのですが5月は全く異なり心地よい風が吹いていました。05:50には中間柵も解放されいよいよ臨戦態勢。薄曇りの空には夏のような雲はないものの、妖艶な紅色の朝日が見事なグラデーションを描き出していました。まだまだ薄暗い中でしたがこの時間はシロハラミズナギドリが次々に出現し、南硫黄島が近づくに従って今度はアナドリの乱舞が始まりました。そんな中、小笠原に来たらこれを見ないと帰れないと言っても良い、セグロミズナギドリが間近を飛び歓声が上がりました。06:00、南硫黄島の周回に入るとお馴染みのカツオドリがまとわりつくように飛翔し、その中に美しい成鳥のアカアシカツオドリの姿がありました。南硫黄島でのメインはアカオネッタイチョウですが7月とそれほど変わらない個体数が見られ、群れでホバリングするような行動が見られました。アカオネッタイチョウはなぜか船舶に近寄ってくる行動が毎回見られていることから上空を眺めていると、案の定、おがさわら丸の上空に何度もやってきました。また距離はありましたが2羽のシロアジサシの飛翔が見られました。その後、09:00からは硫黄島の周回に入りました。ここでは無数のクロアジサシが飛翔し、中には船体のすぐ下を飛翔する個体もいたことからかなり楽しめました。メインのヒメクロアジサシは光線の具合もあってなかなか発見できませんでしたが、4羽で飛翔するクロアジサシの中に小さな個体が含まれていたことから同定することができました。毎回のことですが、クロアジサシと一緒に出現してくれないとなかなか識別が難しいのです。他にもセグロアジサシ、マミジロアジサシを観察することができましたが、最も驚いたのは船尾についてきたクロウミツバメたちでした。すぐさま皆さんを呼んで観察していただきましたが、ここまでじっくりクロウミツバメを観察する機会は過去になかったので幸運でした。さて、硫黄島は太平洋戦争の激しい戦闘において多くの戦死者を出した悲惨な島です。そのためおがさわら丸が硫黄島を離れる際には全員で献花黙祷を捧げると共に2代目おがさわら丸は最後の長い弔笛を響かせたのでした。このクルーズの最後は南硫黄島に似た景観の北硫黄島。12:10から周回に入りました。相変わらずシロハラミズナギドリ、オナガミズナギドリ、アナドリの姿が目立ち、クロウミツバメの姿も頻繁に見られていました。北硫黄島でも多くのアカオネッタイチョウの姿を見ることができ、その中からシラオネッタイチョウを探しました。ただ、この日はなかなかその姿を捉えることができず苦労しましたが、2回目の周回中に2羽で飛翔するシラオネッタイチョウを見つけることができました。ただ、全員の方に観察していただくには厳しい状況でした。おがさわら丸は19:00に父島二見港に戻り、我々は18:30からレストランで夕食、その後、船内泊となりました。
24日、この日は母島に向かうため06:00から朝食、その後07:00にははじま丸乗船口に集合、ははじま丸は予定通り07:30に出航しました。母島までは2時間ほどですがここでも海鳥観察を行いました。この航路はオナガミズナギドリとアナドリが多いのですが、今回もほぼこの2種を観察できました。母島到着後は各宿に分かれて昼食をとった後、13:00から島内探鳥を行いました。一番の目的であるメグロは至るところに生息しているため、その時点でほとんどのお客様が観察を終えていましたが、一応、ガジュマルの木のあるところでじっくり観察しました。港ではアマサギ、アオサギ、キアシシギ、キョウジョシギを観察し、その後は亜種アカガシラカラスバトを探して林道を歩きました。歩き出して僅かなところでは絶滅が危惧されている亜種オガサワラカワラヒワに遭遇。最近では亜種アカガシラカラスバトよりも観察頻度が低かったことから大変に驚きましたが意外なほどじっくりと観察することができました。その後は母島でもかなり有名な乳房山へ。山に入る直前には亜種オガサワラノスリの飛翔を見る機会がありましたが、ここでも残念ながら亜種アカガシラカラスバトを見ることができませんでした。時間も経ってしまったことから一旦解散し、翌朝の観察に賭けることにしましたが、間もなく17:00になろうかという時に別ポイントで亜種アカガシラカラスバトを見つけたという連絡があり急遽現地に向かいました。結果的には薄暗い林の中でその姿を見ることができましたが、時間も遅く長い坂道を歩かなくてはならないことを考慮し、翌朝この場所で観察することにしました。
25日、05:30にご集合いただき亜種アカガシラカラスバトを探しに行きました。ここにたどり着くには長い坂道を登らなくてはならずなかなか大変なのですが、この日は薄暗い林道ではなく比較的明るい場所で地上採食していたため全員でじっくり観察することができました。その後は各自朝食を終えて09:30に母島観光協会に集合。ははじま丸は10:30に出航して父島を目指しました。到着直前にはこのツアー初の雨が降りましたが小雨程度で済み、到着後の12:40に集合、その後は一旦解散して各自昼食、買い物の時間に充てていただきましたが、この日は乗船開始が予定よりも早まったことからあまり時間を使っていただけませんでした。結局13:20から乗船開始となり、おがさわら丸は予定通り14:00に父島二見港を出港しました。出航時は小笠原ぼにん太鼓の音が鳴り響き、出航後は恒例となっているクルーザーからの見送りが続きました。やはりこの光景は小笠原だからこそ。それぞれが小笠原での思い出を胸に刻みながら精一杯手を振ったのでした。ただ、我々はこれで終わりではありません。ここから日没までの海域は過去、比較的良い出会いがあったからです。出航後は天候が回復したこともありこのツアーで最も小笠原らしい青い空と青い海が広がってきました。その美しい海を背景にシロハラミズナギドリやオナガミズナギドリが飛び、最後の別れを告げるかのように1羽のカツオドリがまとわりついていました。今回驚いたのはこの海域でも比較的多くのクロウミツバメが観察できたことでしょう。残念ながら夕陽の時間帯には薄雲がかかってしまいましたが18:00過ぎまで海を眺めていました。
26日、最終日のこの日もバードウォッチャーの熱は冷めることなく03:30起床。04:30には外部デッキから観察を開始しました。もう小笠原の雰囲気はなくなっていましたが、なんとか短パン、半そででいられる暖かさでした。最終日のこの日もまだオナガミズナギドリ、シロハラミズナギドリ、クロウミツバメが見られ、ハシボソミズナギドリがスイスイと船体を追い抜いていきます。そしていよいよオナガミズナギドリの姿が無くなり、オオミズナギドリの姿が目立ち始めると、再びクロアシアホウドリが飛び、三宅島を過ぎた頃からはいよいよトウゾクカモメ類の登場です。ところどころで観察することができたオオミズナギドリの群れに混じっているのか、群れが飛び立つとそれよりもやや高い所を飛翔するクロトウゾクカモメの姿を数回観察することができ、時にはネッタイチョウのように尾羽が長いシロハラトウゾクカモメの姿もありました。また最後の最後にはオオトウゾクカモメが船首を横切るように飛翔してツアーを締めくくってくれたのでした。
6日間という長いツアーで、しかもほとんどの時間を船上で過ごすというスケジュールでしたが幸いにも海況はずっと良く、出発前の天気予報とは違い概ね天候も良い6日間でした。硫黄島クルーズとしては初となる5月の開催でしたが予想した通りにクロウミツバメ、シロハラミズナギドリが多く、アナドリが少ない印象でした。また母島では絶滅が危惧されている亜種オガサワラカワラヒワを観察する機会に恵まれ、ここ数年、野ネコの駆除の成果から一気に個体数を増やした亜種アカガシラカラスバトに出会うこともできました。海鳥観察は慣れが必要でなかなか難しいのですが、今後もさまざま企画する海鳥観察ツアーにぜひご期待ください。2代目おがさわら丸の最後を飾るにふさわしい成果の大きい硫黄島クルーズでした。皆様お疲れさまでした。
石田光史