【ツアー報告】タカ渡る白樺峠とライチョウが棲む畳平 2023年9月16日~18日

(写真:ハチクマ 撮影:杉崎明登様)

春から続いたツアーの繁忙期が8月中旬で一旦終わり、その後はスケジュール的には国内バードウォッチングツアーは夏休み状態になっていました。ただいよいよこの時期から秋恒例のタカの渡り観察ツアーから再スタートとなります。秋にしか大規模なタカの渡りは観察できないことから日本各地でツアー企画していますが、いずれも観察可能な期間が短く、しかも天候の影響を大きく受けるためリスクがあるのがデメリットではありますが、タイミングが合えば信じられないような光景を見ることができます。今回訪れる白樺峠では長らくツアー企画してきましたが、天気予報が各社バラバラであることが普通でなかなか当たらず、その日になって日程を変えたりしてきました。晴れ予報が雨になったり、雨予報が晴れに変わって見事な渡りが見られたこともありました。白樺峠の特徴はなんといっても個体差が激しいハチクマのさまざまな個体が見られること、サシバのタカ柱が見られる可能性が高いことで、観察地が山間部の峠であることから、運が良ければイヌワシ、クマタカといった大型猛禽類に出会える可能性があることでしょう。またわずかな距離にある乗鞍高原や畳平でも魅力的な野鳥が見られることから「タカ渡り」「乗鞍高原の渡り中の小鳥」「畳平の高山鳥」をセットにしました。また以前は乗鞍高原の温泉宿に宿泊していましたが、コロナ以降需要が高まっているシングル部屋が利用しやすいよう松本駅前のホテルを利用しています。昨年の台風のこともあって、数日前から天気予報のチェックは欠かさずしていましたが、今回はやはり各社バラバラながら天気は概ね良さそうだとの感触をもって出発することができました。

16日、この日も早朝から東京都内は快晴。秋だというのに最高気温が30℃に達するとの予報が出る中、ひとまず松本駅に向かいました。途中、車窓からの眺めは真夏のようで、空はどこまでも青く、本当に秋になるのかと思ってしまうほどでした。到着した松本駅もとにかく暑く快晴。ただこの日は午後からは曇りや雨になるとの予報だったため、今回は日程表通り、まずは畳平に向かうことにしました。このツアーは3日間で組んではいますがタカ渡りは晴れなくてはいけないことに対して、畳平のライチョウは晴天の日にはまず見られないことから、天候の悪い日に合わせて畳平に行っています。今回はちょうど初日の午後の予報が芳しくなかったことからちょうどよい判断ができました。途中にある道の駅「風穴の里」までは、このツアー全体の解説や畳平での探鳥スケジュールについて触れ、休憩後はエコーラインを走って畳平に向かいました。ただ麓から眺めると畳平はなぜか快晴でした。畳平到着後は各自準備に取り掛かっていただき、まずは駐車場付近を歩きました。この日は比較的穏やかな天候で風も弱かったことからそれほどの寒さはなく、まずは周辺を飛び回るホシガラスを全員でじっくり堪能しました。この時期は貯食行動真っ只中のため、人を気にすることなく間近までやってきてハイマツの実をついばみます。またカヤクグリもかなりの数が出てきてハイマツに止まったり、地面を歩いたりしていました。斜面を登り始めるとやや風が出てきました。ただここでもホシガラスは何度も出てきてくれ、楽しませてはくれたものの残念ながらライチョウの姿はなく、さらに進んでみました。するとここではガレ場を歩き回る2羽のイワヒバリに出会うことができ、付近のハイマツには渡り途中と思われる2羽のノビタキが見られました。ただここでもライチョウの姿はなく、ただようやく周囲には霧が立ち込めてきたことから期待して一旦戻ることにしました。戻る途中でも別個体のイワヒバリに出会うことができ、いよいよ霧が濃くなってこれは大チャンスと思っていると、普段は見かけない駐車場付近のガレ場に出てきている2羽のライチョウに出会うことができました。やはり畳平のライチョウは雨や霧がない日には見られないのでしょう。今回はたまたま霧が濃くなってきたことから最後の最後で幸運があり、探鳥後にバスに乗り込んだあたりからは雨が落ちてきていました。

17日、この日の天気予報は各社バラバラでなかなか読みが難しい中、とりあえず朝の松本駅前は薄曇りといった感じでした。ただ雨予報ではなかったため朝食後は予定通り乗鞍高原経由で白樺峠に向かうことにしました。この日はタカ渡り観察があることから移動中のバス車内にて主にサシバ、ハチクマの成鳥、幼鳥、雌雄の識別ポイントについておさらいしながら進み、まずは乗鞍高原バスターミナル付近まで進ん休憩を挟み、その後は大混雑の駐車場を離れて周辺を徒歩探鳥しました。まずは雑木林の中からけたたましく鳴くカケスが現れ、しばらく騒ぎ立てていました。その後は思ったほど小鳥類に出会えないながらも、周囲からはウグイス、ヒガラ、ヤマガラ、シジュウカラの声が聞こえ、ミズキの実が成る場所では白樺林の中で飛び回るコサメビタキの幼鳥に出会うことができました。またここ数年、安定的に繁殖しているジョウビタキにも出会うことができ、幼鳥は飛び去ってしまったものの、オスの成鳥はマユミの木にじっと止まっていてくれたことから、我々には珍しい高原のジョウビタキをじっくり見てから白樺峠駐車場に向かいました。到着後は各自、観察に必要なものやお弁当、トラベルイヤホンの受信機をもって歩きはじめ、おおよそ20分ほどでタカ見の広場に到着。後はそれぞれお好きな場所から観察をしていただきました。この日のタカ見の広場はほぼ快晴で日向では日焼けをしてしまうほどの陽気で11:20頃からはいい感じにタカたちが飛びはじめ、早速、ハチクマ♂成鳥、暗色型の幼鳥が通過していきました。12:00にはサシバが飛び、12:05にはやや高かったもののクマタカ成鳥が見事な飛翔を見せてくれました。12:10にはサシバ成鳥♀が間近を飛んでくれ、12:20には眼下から舞い上がった数羽のサシバとともに小型種のツミの飛翔が見られました。12:25には先ほどと同個体と思われるクマタカが再び飛び、12:35には突然、3羽のハリオアマツバメが現れてものすごいスピードで通過していきました。12:40には眼下の林からハチクマ♂、♀がそれぞれ旋回飛翔しながら舞い上がり、13:00にも2羽のハチクマが上空高く通過していきました。これを皮切りにハチクマの出現が増え始め、13:15には松本から舞い上がった3羽のハチクマが右に流れるように飛び、この時、♂の尾上面からも2本の太い斑が見えました。13:25には白樺峠では珍しくハチクマ幼鳥が舞い、13:50にはハチクマ♂が我々の真上を旋回してタカ見の広場がどっと沸きました。14:00にもさらに近く、低く2羽のハチクマが通過し、この後も14:30頃まで次々に稜線に出現したハチクマたちが次々に我々の頭上を通過するという幸運が続きました。14:50には久しぶりに10羽ほどのサシバが旋回上昇するタカ柱が見られ、14:55には追うように現れた5羽のサシバが我々の目の前を通過していきました。そして15:45には10羽ほどのハリオアマツバメがビュンビュンと飛んでタカ見の広場がどっと沸きました。この日の公式発表はサシバ189羽、ハチクマ127羽、総数341羽とのことでした。

18日、この日は各社予報が晴れで一致していることもあってか、松本市内は早朝から見事な青空が広がっていました。この日も前日同様に朝食後は乗鞍高原に向かい、この日もまずは昨日とは異なるルートを歩いて探鳥してみました。ここでも早速、数羽のカケスがやってきて騒ぎ立て、珍しく良い横枝に止まってくれる個体もいました。さらに歩くと針葉樹の中からもカケスの声が聞こえ、よく見るとアオゲラが幹を登っていました。さらに驚いたことにここでもクマタカが現れてしばらく上空を旋回してくれました。ただこの日も狙っていたヒタキ類に出会うことはできず、シジュウカラ、エナガ、コガラ、ヒガラを見てから白樺峠に向かいました。駐車場到着後は各自、必要なものをもってタカ見の広場に向かっていただき、この日も昨日同様にお好きな場所から観察していただきました。10:30に現地に着くと早くもハチクマの飛翔が見られ、この日は松本よりも左の稜線付近から沸き上がってきていました。10:50には1羽のツミが間近を飛び、11:00には2羽のハリオアマツバメが飛んで行きました。そして11:10には眼下の林から次々に沸き上がった5羽のハチクマがみるみる接近して最後は我々の上空を通過していきました。また見ていると後ろからノスリがヒラヒラ飛んできました。11:30には5羽のサシバの群れが稜線から沸き上がり、見事な旋回飛翔を見せ、よく見ると1羽のツミが混じっていました。12:05には3羽のハリオアマツバメが通過し、12:30頃からは次々にサシバが旋回飛翔しながら沸き上がり、12:40にはその群れが上空でタカ柱となっていました。12:50頃からは松本から左側の稜線上に雲がかかり始め、そのころからはタカの飛翔位置がやや高くなったように感じました。12:55にはノスリが飛び、13:55からは再び複数のハリオアマツバメが飛び回ってタカ見の広場がどっと湧きました。14:15には松本の下から沸き上がったハチクマが目線ほどの高さで旋回飛翔をはじめ、よく見るとその中に1羽のミサゴが混じり、最後は我々の上空を通過していきました。その後はタカたちがかなり高い位置を飛翔するようになり、少々動きが落ち着いてきた15:45に探鳥を終えました。この日の公式発表はサシバ302羽、ハチクマ301羽、総数660羽とのことで、この日が2023年秋に関してはここまでの最高値となりました。

そもそも天候が安定しない時期であることもあって、過去、台風直撃や天候悪化などにより予定変更が頻繁に発生するなど何かと問題が多いツアーでしたが、今年は概ね穏やかな3日間を過ごすことができました。結果的にはジョウビタキやカケス、コサメビタキなどは見られたものの、乗鞍高原では渡り途中のヒタキ類がほとんど見られずタイミングを外した感があり残念でした。ただ初日にはライチョウ、ホシガラス、イワヒバリ、カヤクグリの高山鳥4種を堪能することができ、メインのタカの渡りは2日間に渡って楽しむことができ、数こそ少なかったですが、サシバ、ハチクマが低く、近くを飛んでくれたので見ごたえ十分で、クマタカ、ハリオアマツバメが複数回見られたことも成果でした。タカの渡りは何度来ても全く同じ光景はありません。ぜひまたの機会にタカの渡り観察におでかけいただけましたら幸いです。この度はご参加いただきましてありがとうございました。

石田光史

ライチョウ 撮影:須崎明男様

 

ジョウビタキ 撮影:坂東俊輝様

 

ハチクマ 撮影:大木邦夫様

 

サシバ 撮影:杉崎明登様

 

イワヒバリ 撮影:須崎明男様

 

カヤクグリ 撮影:坂東俊輝様

 

ホシガラス 撮影:大木邦夫様

 

ハチクマ 撮影:杉崎明登様

 

アオゲラ 撮影:須崎明男様

 

ホシガラス 撮影:坂東俊輝様

 

ハチクマ 撮影:大木邦夫様

 

ハリオアマツバメ 撮影:杉崎明登様

 

クマタカ 撮影:須崎明男様

 

ハチクマ 撮影:坂東俊輝様

 

クマタカ 撮影:大木邦夫様

 

ライチョウ 撮影:小澤正幸様

 

サシバ 撮影:大木邦夫様

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