【バードガイド石田光史の鳥のおはなし】レンジャクとヤドリギの不思議な助け合い
(写真:糞をするヒレンジャク)
人相が悪いレンジャクとちゃっかりしたヤドリギの何とも不思議な助け合い
日本で見られる野鳥は700種を超えると言われます。人間にもさまざまな生きざまがあるように、何気なく見かける鳥たちにもさまざまなドラマがあるのです。秋が深まり、公園の池が冬鳥として渡来するカモ類で賑やかになってくると、ドラマチックな出会いを提供してくれるある冬鳥の事が気になりだします。
シベリアの厳しい冬から逃れるように渡ってくるレンジャクがその鳥です。正確には西日本に多いヒレンジャク、北日本に多いキレンジャクとの2種に分かれ、この両種が混群を形成することもあります。
全長は20cmほどでずんぐりとした太めの体型で、両種とも特徴的な長い冠羽がありまるで角のように見えます。喉は黒く目から冠羽に沿うように黒いラインがあるためやや人相が悪く見える気がします。尾羽の先端が赤いのがヒレンジャク、黄色いのがキレンジャクという見分け方が一般的ですが、ヒレンジャクは腹の中央が白っぽく見えるので尾羽先端が見えなくてもなんとなく見わけられるようになります。
英名は「ワックスウィング」(Waxwing)。Waxとは蝋、Wingは翼で、キレンジャクの次列風切の先端に赤い蝋状の物質があることから名付けられました。さて、ではこの鳥がどうしてドラマチックなのかですが、それは年による飛来数が極めて不規則で、大群で見られる冬もあれば全く見られない冬もあるからです。晩秋の頃には多くのバードウォッチャーがやきもきさせられ、だからこそ出会えた時の感動は大きいのです。
渡来した冬には大群で移動しながら街路樹のナナカマドの赤い実を片っ端から食べあさり「ヒーヒー」「チリチリチリ・・・」と鳴きながら次から次に移動していく様は迫力すら感じます。飛翔形が三角形で紙飛行機のように見えるのでそれと分かるでしょう。関東の平野部では2月下旬から見られはじめることが多く、そのほとんどがヤドリギにやってきます。
ヤドリギは冬でもモコモコと塊状に葉を茂らせているので、殺風景になった雑木林でもとにかくよく目立ちます。だから我々はこのモコモコしたヤドリギのある場所を探して、なんとかこの鳥に出会えないかと思いを巡らせるわけです。
このヤドリギは寄生植物として知られ、他の樹木にとりついて養分を得て生きています。しかし屋外でヤドリギを見てみるとわかりますが、とても高い場所に寄生しています。一体どうやってあんな高い場所にとりついて芽を出したのでしょう。
その答えはレンジャクを観察することで解けるのです。レンジャクにとって大好物であるヤドリギの実を食べることは当たり前のことです。食べれば当然糞をするわけですが、この糞がなんとも特徴的なのです。よく見ると硬い種は消化されずそのまま出てきます。そして糞そのものはねばりけが強く糞は地上にポトリと落ちることはなく、必ずといって良いほど途中にある幹にぶら下がるように張り付きます。種はやがて樹木にくっつき成長してゆきます。
要するにヤドリギとレンジャクはお互いに助け合うかのような関係性を築いているのです。ヤドリギはレンジャクのおかげで高木の枝に根を下ろすことができ、レンジャクは冬場の飢えをしのぎながら種を蒔くという役目を担っています。
多くの樹木が葉を落とす時期になっても、ヤドリギは緑色のモコモコになっているため見つけやすいものです。そこにいずれレンジャクがやってくると想像しながら、早い段階でヤドリギのある場所を見つけておいてみてはどうでしょうか。
石田光史