【ツアー報告】落石クルーズで夏羽のエトピリカに会いたい!(追加設定)2022年7月11日~13日
(写真:チシマウガラス 撮影:大野一郎様)
鳥の観察会の道東ツアーでは必ずといってよいほど乗船してきた落石クルーズ。 実はこの落石クルーズとは営業運行以前からお付き合いさせていただいており、試験運行時の乗船やその後の意見交換会にも出させていただいたことから何かと思い入れがあります。その後、営業運行が始まってからも道東ツアーではこの落石クルーズをツアーに入れるようにして微力ながら応援してきました。 この落石クルーズの素晴らしさは見られる海鳥の顔ぶれを見ていただければ一目瞭然ではありますが、実はもっとすごいことがあるのです。 それは実際に毎日毎日忙しく漁をされている漁師さんが海鳥たちに興味を持って運行されているということです。言うまでもなく基礎的な識別は問題なくこなし目が良いことも際立っています。前回のツアー後は海況悪化や天候不良があったようでしたが、今回はたまたま再び海況が良いタイミングに当たってくれ、天気予報もまずまずといった中で出発できることになりました。
11日、午前中から早くも30℃超えの東京都内は快晴。今回は天候調査などの不安は一切なく、集合場所の羽田空港では連絡事項などをお伝えしてから中標津空港に向かいました。この日は珍しく青空が見えている中標津空港に予定通り到着。到着後は観察機材の準備をしていただいてからバスに乗り、最初の探鳥地に向かいました。途中、青空も見えていましたが現地に近づいてくる頃からは霧が立ち込めてきてどんよりとした空模様に変わってしまいました。前回に比べてかなり気温が高い印象の中、咲き乱れるエゾカンゾウやハマナスの花を車窓から眺めながら走り、途中、数カ所の湿地帯でバスを降りて観察しました。どうも草原性の野鳥が少ないようでしたが、ヒナを連れたノビタキや夏羽のオオジュリン、そしてこの時期よく見られているオジロワシなどを見てから移動しました。ここでは先月から2羽のヒナを連れたタンチョウのつがいが見られていましたが、この日ははるか遠くにタンチョウのつがいは見られましたがヒナの姿は見られず、そのため反対側の道を進んで湿地帯を探してみまししたが、群れているエゾシカ、元気よくさえずっているシマセンニュウを見るに留まりました。
12日、早朝から根室の代名詞である濃霧が立ち込め、さらには霧雨模様の中、朝食前に探鳥に出かけました。駐車場でバスを降りて歩き出すと早速、ヒガラやシジュウカラの声が聞こえ、よく見てみるとどうやらヒナを連れているようで顔が黄色みを帯びた幼鳥個体が賑やかに飛び回っていました。草地ではソングポストでコヨシキリが賑やかにさえずり続け、付近にはアオジやベニマシコ、一瞬でしたがノゴマのオスも枯れ木にとまってくれました。さらに進むとアオバトが枯れ木に止まり、再びヒガラ、ハシブトガラ、そしてシロハラゴジュウカラたちに囲まれ、間近にその姿を観察することができました。池に向かって歩くと、途中ではミソサザイが賑やかにさえずり、遠くからはカッコウの声も聞こえていました。池までくるとウミネコとオオセグロカモメが水浴びをしていて、付近の草地ではシマセンニュウのさえずりが聞こえ、コヨシキリが行き来していました。探鳥後は一旦ホテルに戻って朝食をいただき、その後は再度出発して落石漁港に向かいました。早朝に比べると霧は薄くはなっていましたが、落石は全く逆側のため行ってみなければわからないものです。ひとまずバスを進めると空は次第に明るくなってきていて青空も見えてきました。落石漁港が見えてくると海上には霧がかかっていましたが周囲は明るくなってきていて、これは霧がなくなるのではないかと期待が持てる状況になっていました。この日は波は0.8ⅿ、風は4ⅿとのことで運行には問題なし。到着後は乗船準備にとりかかっていただきましたが、東風の影響からか出航直前になって外洋から霧が岬に入り込んできてしまいました。その後出航。海上には霧がかかっていてこの後どうなるのかは全くわからない状況でした。まずは海上に点々と群れているウトウを見ながら進み、海上で餌を食べているフルマカモメを間近に見ることもできました。この日はいつものようにまずはユルリ島の南側の海域を比較的じっくりと探しながら進め、その後次第に島に向かって進みました。視界に関しては見る見る変化するといった状況で霧対策用のサングラスをつけていても100ⅿも見えていない感じでした。ユルリ島の南側までくると霧の中から「ピピピピッ」と鳴きながら求愛行動をするケイマフリが何個体も現れ、これといって警戒する様子もなく間近に見ることができました。前日にエトピリカが見られている湾の付近では時間をとって探してみましたが見つけることはできず、その後はモユルリ島に移動。ここではたまたま霧が薄くなったタイミングを見計らってチシマウガラスを観察。たまたま薄日も射してきてくれたためここだけは好条件になってくれ、美しい生殖羽のチシマウガラスを間近に観察することができました。その後はラッコも探しましたが霧にはばまれてなかなかうまく行きませんでしたが、船を進めると意外な場所にラッコがいてくれ、しかもたまたま霧が薄い場所だったため意外なほどよい光線状態で見ることができ、しばらく見ているとどんどん船に近寄ってきて手で触れるほどの距離感で見ることができました。下船後は湿原に向かいました。 この日は途中までは快晴、ただし海岸に近づくにつれてやや霧が出てきました。展望台では霧のため視界が今一つでしたが、電柱の上にはオオジシギが止まり、原生花園からはシマセンニュウのさえずりが聞えていました。遊歩道を歩くと次第に霧が晴れてきてシシウドに止まってさえずっているシマセンニュウを見ることができ、最後は電線でさえずっているオオジュリン、ノビタキも見ることができ、アゼチの岬に移動しました。霧はこちらのほうがやや濃い印象でしたが、アマツバメが飛び交い、その中には小型のショウドウツバメの姿もありました。しばらくすると電線でノゴマがさえずり出し、時間をおいてアオジもさえずっていました。原生花園の小径を歩くとシマセンニュウ、オオジュリン、ノゴマが次々に現れてさえずり、最初は霧で見えなかった島が見えると、そこで繁殖中のウミウやヒメウも見ることができました。その後は再度、展望台に行き、今度はかなり近い電柱に止まって鳴いているオオジシギを見ることができ、その後は風連湖に立ち寄ってからホテルに向かいました。
13日、この日も早朝から根室市内は霧が出ていましたが前日に比べるとそれほど濃くはない印象でした。この日も朝食前に探鳥に出かけ、バスを降りると独特のさえずりでエゾセンニュウがさえずっていました。林ではこの日もヒガラのヒナたちが賑やかに動きまわり、しばらくするとナナカマドに止まった真っ赤なベニマシコがさえずりを披露してくれました。さらに進むとこの日はカッコウが賑やかで2羽が追いかけっこするように飛び回り、うち1羽が木に止まってさえずってくれました。探鳥後は一旦ホテルにて朝食をいただき、その後は昨日同様に落石漁港に向かいました。この日は時間と共に空は見る見る青空に変わり霧が薄くなってきている感じでしたが、本当に霧はわからないもので落石漁港に到着すると海上だけがなぜか濃い霧に包まれてしまっていました。そしてこの日も乗船準備をしていただいてから出航して生殖羽のエトピリカを探しました。風はほとんどなく波は前日よりもさらに収まっている感じで、視界は思ったほど悪くはなく、場所によって100ⅿは見えているかなといった感じでした。出航直後は点々と浮かんでいるウトウをチェックしながら進み、ユルリ島の南側までくるとようやく非生殖羽のエトピリカに出会うことができましたが、わずかな時間で潜水してしまい、しばらく待ってみましたが行方不明になってしまいました。ただ周囲を探していると、驚いたことに1羽のツノメドリが浮いていたためしばらく観察することができました。その後はユルリ島に東端の湾まで行き、ここが最もエトピリカの確率が高い場所のためしばらく時間をとって周囲を探してみました。霧の中からは「ピピピピッ」とケイマフリの声が聞こえ、船を進ませると霧の中からケイマフリが次々に現れました。ただこの日も残念ながら生殖羽のエトピリカに出会うことはできず、その後はラッコ、チシマウガラスをやや霧がある中で観察してから港に戻る進路をとりました。ただ意外なことにユルリ島の北側でも再びツノメドリに出会うことができ、それほど警戒していなかったことからかない至近距離で観察してから港に戻りました。
比較的海況が良い時期ではありますが、やはりどうしても欠航のリスクはあるものです。ただ今回は予定通り落石クルーズに2回乗船することができ幸いでした。結果的には生殖羽のエトピリカに出会うことができず残念でした。ただこの海域ではエトピリカよりも出会いの頻度が低いツノメドリに2度出会うことができ、生殖羽個体ではなかったですがエトピリカ、さらには美しい生殖羽のチシマウガラスや定番のケイマフリやウトウ、さらにはラッコを間近に見ることもでき一定の成果はありました。クルーズ以外にもタンチョウやオジロワシ、原生花園ではノゴマやオオジュリン、シマセンニュウ、ベニマシコ、オオジシギなどを楽しむことができました。落石クルーズは極めて特殊なクルーズですが、海鳥好きのバードウォッチャーにとっては極めて貴重なクルーズです。 冬季にはウミバトをはじめ、コウミスズメ、エトロフウミスズメといった国内観察が極めて難しい小型ウミスズメ類が高確率で見られます。ぜひまた季節を変えてご乗船ください。 この度はご参加いただきましてありがとうございました。
石田光史