【ツアー報告】春の小笠原 ザトウクジラと聟島チャータークルーズ 2020年4月1日~6日
(写真:ザトウクジラ 撮影:中山司様)
ここ数年、鳥の観察会では野鳥に限定したツアー以外にさまざまな生き物、その土地独特の景観、食といったものにもスポットを当てたツアーを企画してきました。世界遺産という点ではすでに北海道知床を舞台にしたツアーをさまざま企画し、すでに多くのお客様からご好評をいただいております。そして昨年春から新たに企画したのがこの春の小笠原です。小笠原に関してはすでに夏の硫黄島クルーズがすっかり定番化しておりますが、春にはアホウドリ類が見られ、何といってもザトウクジラの豪快なブリーチングが見られること、そして夏季に比べて涼しく島内が空いていることもポイントです。ただ夏季に比べて海況がなかなか安定しないデメリットがあり、波や風の状況に一喜一憂することもしばしばで、今回もまさにそのような状況での出発となりました。
3日、いよいよこの日はこのツアーのメインのひとつ、聟島への1日クルーズです。早朝から快晴そして無風。ただここ数日の波予想では聟島付近の波が2.0m以上と出ていたことから心配していて、前日の話の中でも船長は当日にならないとわからないと話していました。ただこの日は06:00から朝食をいただいた後は問題なく進み、予定通り07:20に出港して聟島に向かいました。ただ前日にザトウクジラのアクションがなかったことからちょっと寄り道してザトウクジラの親子を観察。ただこの日も派手なアクションを見ることはできませんでした。時間が押してきてしまうことから船は右手に兄島、弟島を見ながらひたすら北へ北へと進み、途中では2.0~2.5mはあろうかといううねりを超えながらグイグイと進みました。空はどんどん青くなり海は小笠原ブルー。その海上をオナガミズナギドリが気持ちよさそうに飛び、クロアシアホウドリが船を追うように器用に飛翔してくれ楽しませてくれました。そして予想よりも時間がかかったものの10:00過ぎにようやく嫁島に到着。やや波がありましたが切り立った大きな岩を背景に思った以上のクロアシアホウドリが乱舞していたことが印象的でした。船はここからさらに北に進み、媒島を経て11:30にようやく念願の聟島に到着することができました。この頃にはすっかり波は低くなり、ひとまず湾内に船を進めて停船し、お昼ごはんを食べながらアホウドリ類を観察することにしました。すでに島の斜面にはかなりの数のクロアシアホウドリのヒナたちが見られ、巨大なクロアシアホウドリの成鳥が飛び回っています。よく見ると白っぽい個体が見られたことから双眼鏡で見てみるとコアホウドリでした。この斜面ではひとつがいが繁殖しているようでその姿が目立ちました。しばらく見ているとコアホウドリの成鳥も飛び回り、ふいにアホウドリの亜成鳥も飛んできて島影に消えていきました。海鳥はかなりの年月見ており、クロアシアホウドリは北海域ではそれほど珍しい海鳥ではありませんが、こうして繁殖地の地上をノコノコ歩き回る姿は見たことがなく、新鮮に見えました。ふと見ると聟島周辺は想像以上のクロアシアホウドリが飛び回っていて、独特の雰囲気を醸し出していました。1時間ほど観察した後は一旦場所を変え、アホウドリのデコイが設置してある場所に向かいました。やや距離はあったものの白いアホウドリのデコイはよく目立ち、よく見るとすぐ傍らには本物のアホウドリの亜成鳥が佇み、ここがようやくアホウドリの新しい繁殖地になりつつあることを実感することができました。その後は再度ザトウクジラの観察時間を加味して再び父島に向けて出発しました。波は予報通り時間と共に穏やかになってきていて、帰りは穏やかな海を進むことになりました。帰りも相変わらずクロアシアホウドリ、オナガミズナギドリが船の後について回る中、幸いにも何度かザトウクジラの親子に出会うことができ、ミナミハンドウイルカの群れにも出会うことはできましたが、この日も派手なアクションをするザトウクジラに出会うことなく、最後は船の上を通過していくアカアシカツオドリを見て、薄暗くなってきた父島に17:30頃に戻ってきて、長い1日クルーズを終えました。
さて、昨年に引き続いて2度目のツアーでしたが、今回は昨年たどり着くことができなかった聟島にようやくたどり着くことができ大きな成果を挙げることができました。春は夏とは違い、海の状況が落ち着かず、なかなか思ったように船を進ませてくれません。そんな中、今回は良い海況の日に当たることができたことは本当にラッキーでした。映像では見たことがあった聟島でしたが、実際に訪れてみると想像以上に遠く、また大きな島でした。周囲を飛び回るクロアシアホウドリの乱舞は見事で、点在するクロアシアホウドリのヒナたちの姿には感動しました。また数つがいしかいないとされていたコアホウドリがあっさり見られたことも驚きで、まず見ることはないだろうと思っていたアホウドリの姿もあり、さらに驚きました。アホウドリに関しては今後さらに繁殖個体が増え、あの斜面が真っ白に見えるくらいになればまた新たな感動がよぎるのではないかと思いました。そして春の小笠原の主役であるザトウクジラに関しては何度も何度も間近にその姿を見せてくれました。来春は今回を踏まえてさまざま考慮した上で再度企画したいと思います。この度はご参加いただきましてありがとうございました。
石田光史