【ツアー報告】春の小笠原 ザトウクジラと聟島チャータークルーズ 2019年4月3日~8日
(写真:ザトウクジラのジャンプ 撮影:中山司様)
世界遺産に指定された知床を舞台に、そこに生息する野鳥を含めたさまざまな生き物にスポットを当てた企画を昨年催行しましたが、その企画に並ぶ第2弾ともいえる企画がこの春の小笠原です。海鳥はもちろん、母島にはメグロやオガサワラノスリ、アカガシラカラスバトが生息し、海に出ればこの時期限定のザトウクジラの豪快なブリーチングが楽しめます。また父島から2時間ほどのところにある聟島は国の特別天然記念物、アホウドリの移住計画で脚光を浴びている新たな繁殖地です。今回はこれら、小笠原に生息するさまざまな生き物たちにスポットを当てた新企画として催行することができました。小笠原といえば長らく夏に企画してきましたが、春は夏に比べて海況が安定しないためややハードルが高い印象があります。
3日、春休み明けの便ということもあり、それほど混雑していない竹芝桟橋にご集合いただき、資料配布、トラベルイヤホン使用方法の説明、翌日までの連絡事項をお伝えしてから乗船しました。この日の乗船人数は400名ほどと少なく、ただ季節柄、小笠原に赴任される方々の姿が目立ちました。快晴の中、おがさわら丸は11:00に出港し、東京湾内を出るのに3時間ほどかかることからまずは昼食や船内見学に時間を使っていただき、その後観察を開始しました。外部デッキに出ると予想以上に風が冷たく感じました。この日はオオミズナギドリ、クロアシアホウドリ、そしてアホウドリの亜成鳥の飛翔を見ることができました。
4日、早朝にデッキに出ると空はどんよりとして小笠原のイメージとはかけ離れていました。昨年訪れた際にはもう半袖でしたが、この日はまだまだ真冬のような冷たい風が吹き、遠くから雨雲も接近してきれいな虹のアーチがかかりました。この日はオーストンウミツバメ、クロアシアホウドリ、カツオドリ、ハイイロヒレアシシギ、オナガミズナギドリ、シロハラミズナギドリが見られ、おがさわら丸は定刻の11:00に父島二見港に着岸しました。下船後はちょうどおがさわら丸の後方に停泊しているははじま丸に乗り換えて母島に向かいました。この日はやや波が高く船体が大きく動揺しましたが、二見港を出たあたりで早速ザトウクジラのブリーチング、そして尾ビレで水面を叩くテールスラップを見ることができました。航路ではオナガミズナギドリ、カツオドリを見ることができ、母島到着後は一旦宿に入ってから徒歩探鳥に出かけました。この日は早速メグロ、メジロ、イソヒヨドリが見られ、地面でせっせと餌を探すアカガシラカラスバトを間近に見ることができました。ほかにも2羽のムナグロとホオジロハクイセキレイが歩き回り、ふいに飛んできたオガサワラノスリが枯れ木に止まってしばらくその姿を楽しませてくれました。その後はトラツグミ、水浴びをするメジロを見てから宿に戻りました。夏に比べて涼しいためとにかく居心地が良く、変な汗をかくことなく探鳥ができた1日でした。
5日、この日は早朝に周辺を歩きメグロ、ハシナガウグイス、ダイサギ、キセキレイを観察しました。朝食後もメグロ、メジロ、ハシナガウグイスはあちらこちらで見られ、母島では珍しいサシバ、ツミの飛翔が見られました。その後は飛翔するツバメチドリ、砂浜には数羽のムナグロの姿があり、ノビタキをご覧になった方もいらっしゃいました。また海を眺めると数頭のザトウクジラのブローが見られ、穏やかな海を泳ぎまわる姿を堪能することができました。そして探鳥後は14:00発のははじま丸で父島に向いました。この日はとにかく海況が良く、真っ青の海の上をすべるように進み、ここでも頻繁にザトウクジラのブローを見ることができ、二見港に入った直後には数頭のザトウクジラが群れ、オスがメスを奪い合うヒートランと呼ばれる行動も見ることができました。父島到着後は一旦宿に入った後、少々時間があったことからビジターセンターに立ち寄って1日を締めくくりました。
6日、この日は聟島へのチャータークルーズの日でしたが、早朝から南風が強く、風に揺れる木々の音で目が覚めました。どうなることかとは思いましたがひとまず出港するとのことで朝食後に出港しました。ただ海況は徐々に悪くなり、ひとまず兄島、弟島と北上して孫島まで行って状況を見ることにしました。孫島ではクロアシアホウドリが繁殖していることから、強風をうまく利用して飛翔する迫力ある姿を観察することができ、ここからさらに北に進むとオナガミズナギドリやカツオドリの飛翔を見ることもできました。ただ風がさらに強まり、波もかなり高くなってきたことから残念ながらこの日の聟島周遊を諦め、父島周遊でのホエールウォッチングにプログラムを変更することにしました。波が高いものの父島の西側にザトウクジラが多いとの情報から島の西側を航行すると、幸いにもザトウクジラのブローが見られ、観察していると子供のクジラがブリーチングを始めました。そのため徐々に船を近づけて観察していると、突然間近から巨大なザトウクジラの親が豪快なブリーチングをしてその大迫力を体感することができました。そのブリーチングは数回繰り返され、大歓声の中、船は波と風を避けて兄島海中公園に停泊して一旦昼食の時間としました。この時間は主に昼食と休憩に充てられますが、船長のサービスでこの海域に多く生息するものの、なかなか姿を見る機会がないウミヘビを見せていただき盛り上がりました。その後は風を避けるために父島の東側を航行するも、いよいよ強風を避けられなくなり、波も高いことから少々早めに戻りました。その後は一旦宿に戻り30羽ほどで群れるムナグロとその中に混じるキョウジョシギの姿を観察し、この日の探鳥を終了しました。
7日、この日は天気予報では曇りのち雨となっていて心配でしたが朝から青空が広がっていました。前日は不運があり残念な思いが残りましたが島での最終日は風もなく穏やかでした。この日は南島上陸ツアーでしたが、前日に船長から出港を前倒しするという心遣いをいただき、快晴の中まずは南島に向けて出港しました。天気予報に反して空は見る見る真っ青になり、南島上陸時には見事な青空で、しかも出港を前倒ししたことから南島を独り占め状態でした。あまりにも有名な扇池は見事な小笠原ブルーで記念写真を撮り放題撮って、その後は350年前に絶滅したという説が有力なヒロベソカタマイマイの半化石、さらには陰陽池でムナグロやコチドリを見てから眺望が良い高台まで歩いて南島の全景を楽しむことができました。そして我々が島を後にある頃からは空には雲が広がってきていました。南島はやはり天気が良いほうが眺望が良いことから早めに島に上陸できたことは幸いでした。そしてその後は再びザトウクジラを探しました。この日も父島の東側の海域を航行しましたが、早速複数のザトウクジラのブローが上がり、その中でもかなり活発にブリーチングを繰り返す子供のクジラに接近して観察することにしました。するとまるで船と遊ぶかのように子供のクジラがブリーチングを繰り返し、時には船首から僅かな位置でブリーチングをして水しぶきがかかることもありました。たまたまこの頃には天気が回復してきたため、凪の海面と空が小笠原ブルーになる中でザトウクジラの豪快なブリーチングを堪能することができました。港に戻った後は各自昼食を食べたりお店を回ったりしていただき14:00に父島待合室にご集合いただき、その後は乗船しておなじみとなった小笠原太鼓、そして世界一のお見送りと言われるクルーザーによる見送りを堪能して竹芝桟橋に向けておがさわら丸は進んでいきました。この日の航路ではオナガミズナギドリ、カツオドリ、クロアジサシ、シロハラミズナギドリ、クロアシアホウドリ、そしてオーストンウミツバメの乱舞は圧巻でした。
8日、薄雲の向こうにようやく日の出が見えた早朝から探鳥開始。みるみる青空が広がってくる中、なぜか1羽のカルガモが飛び、しばらく船についてきました。その後、続々とオオミズナギドリの群れが現れる中、夏羽のトウゾクカモメがしばらく船の脇を飛翔しました。ほかにはアカアシミズナギドリ、ハンドウイルカの群れ、そしてアホウドリの成鳥が悠々と飛翔し、クロアシアホウドリ、トウゾクカモメ、オーストンウミツバメが見られました。
さて、初企画となった春の小笠原。昨年春の同時期に小笠原を訪れ、さまざまな魅力を発見できたことからツアー化しましたが、思った以上の成果があり、夏とは違った小笠原の魅力をお伝えできたのではないかと思いました。ただ夏に比べると海況が安定しないことから、そのリスクもあって聟島に到達することができず大変残念でした。今後、聟島にやってくるアホウドリの数は増えるはずですから、今後も根気強く企画していきたいと思いました。一方、ザトウクジラは予想以上に楽しませてくれました。実は昨年は思ったようにブリーチングしてくれず残念だったのですが、今回は豪快なブリーチングを間近に見られたほか、ヒートランとみられる行動も見られました。そして母島での探鳥も夏には考えられないような成果があり、メグロ、アカガシラカラスバト、オガサワラノスリ、そしてハシナガウグイスをあっさり観察することができ、また気温がそれほど高くないことから心地よい探鳥ができたことも今後アピールポイントになるでしょう。5泊6日の長旅でした、この度はご参加いただきましてありがとうございました。
石田光史