【ツアー報告】小笠原 硫黄島3島クルーズとメグロの島・母島 2018年7月4日~9日

(写真:アカオネッタイチョウ 撮影:千賀和彦様)

年に一度の海鳥祭りと称されるこの小笠原海運特別航路、硫黄島3島クルーズ。昨年は9月催行でしたが、今年は小笠原の海鳥たちが最も数多く見られる7月催行となりました。ただ、この小笠原海運特別航路は定期航路ではないため規定の参加者数が集まらないと硫黄島3島には行けないというハードルがあります。毎回、募集開始とほぼ同時期に催行決定の連絡が小笠原海運からあるのですが、今年はなかなか催行決定の連絡がなく心配でしたが、なんとか今年も硫黄島3島に行けることになり安堵しました。ただ、以前は秋だけ気にしていればよかった台風が夏季にも発生するようになり、今回もたまたま台風7号の動きを気にしながらの出発となりました。

4日、西から台風7号が接近する中ではありましたが東京都内は影響なく09:30には集合場所である東京竹芝桟橋に到着して準備に取り掛かりました。集合時間の10:00前には多くのお客様がご集合されていたためご集合いただき、資料配布及び連絡事項の伝達、そしてトラベルイヤホンの使い方などの説明を行いました。この日は10:15からチケット番号順に乗船開始となり、おがさわら丸は予定通りやや風が出てきた竹芝桟橋を11:00に出港しました。ひとまずここから数時間は東京湾内を進むことから、この時間を使って挨拶回りや小笠原海運のスタッフの方々との打ち合わせ、また昼食を済ませ、実際には14:00頃から探鳥を開始しました。ただ台風の影響からか東京湾内からいきなり白波が立っていて風が次第に強くなってきていました。まずはオオミズナギドリの飛翔を見ながら、和気藹々とした雰囲気の中でおがさわら丸は進んでいきましたが大島付近にさしかかった15:00頃からは海水が飛沫となってデッキに上がり始めたためデッキ後方からの観察となりました。この頃には僅かながらアナドリの姿が見られるようになり、御蔵島にさしかかった16:20には遠くにシロハラミズナギドリの姿があり驚かされました。ただ良く見てみると前頭部ではなく首が白く見え、なんとオオシロハラミズナギドリでした。この個体は接近はしませんでしたがしばらく船と同じ方向に飛翔してくれたため、翼下面の細いカギ模様もしっかりと見ることができました。例年、秋のこの航路の主役であり夏季に見たことは全くなかったため、おそらく台風7号の影響で進路を逸脱して飛翔していた個体ではないかと推測されました。さらに17:00には同様にこの航路で秋によく観察されているコシジロウミツバメが2羽見られ、オオミズナギドリの群れに混じって飛翔するカツオドリ、そしてどんよりとした空模様になってきたため薄暗くなってしまった18:20にはオナガミズナギドリの姿も見られ、全身海水まみれになった初日の観察を終えました。ただこの日の夜は夏季とは思えないほどの揺れに見舞われ、船首側の通路は手すりにつかまらないと歩けないほどでした。

5日、日の出が04:45のため04:00に起床して準備に取り掛かりました。台風7号からはどんどん離れている状況だっため心配された波の影響はほとんどなく、意外なほど穏やかな朝でしたがいきなり到着が40分遅れるというアナウンスがありました。早朝は主役がオオミズナギドリからオナガミズナギドリに変わり、06:15にはようやくシロハラミズナギドリが出現して大きな上下動をしながら飛んでいきました。また07:00にはこの日最初のカツオドリが2羽、おがさわら丸を追うように飛翔し、それにあわせるかのように空は青く、そして小笠原らしい青い海がその姿を現し始めました。07:30には船首方向からかなり良い距離感で再びオオシロハラミズナギドリが現れ、08:30には数頭のコビレゴンドウがふわっと浮上しました。そしてまたまたさらに良い距離感で10:15にオオシロハラミズナギドリが出現してデッキ上がドッと沸きかえりました。その後はやや波がある海域と穏かな海域が交互にやってくるような状況となりましたが、父島が近づいてくるにつれて次第に波は穏やかになり、小笠原らしい真っ青な空が出迎えてくれました。結局この日は11:40に父島二見港に接岸し、下船時にはほぼ12:00になっていました。下船後は倉庫に荷物を預けてから父島待合室にご集合いただき、連絡事項をお伝えした後、自由行動としました。私は南島へのオプショナルクルーズ担当のため13:00に再集合していただき南島に向いました。この日は見た目よりも波があり、南島に上陸できるかは現地判断とのことでしたが無事に南島に上陸することができ、小笠原で最も美しい場所と呼ばれるその景観をお楽しみいただきました。上陸後に振り返って見える鮫池、そしてパンフレットでよく見る扇池をはじめ、ハートロックが一望できる場所まで上り、真っ青な海とカツオドリの飛翔を堪能し、ヒロベソカタマイマイの半化石、そして巣の中にいるアナドリ、真っ白なヒナと共に佇む岩礁のカツオドリなどを楽しむことができました。後半は航路では飛翔しているカツオドリしか見ることができないことから、島周辺を遊覧しながら岩礁に止まっているカツオドリとそのヒナの姿を観察しました。父島に戻った後は付近のガジュマルに止まるアカガシラカラスバトを観察し、その後17:00からは我々独自の硫黄島3島クルーズの解説を1時間ほどかけて行いました。硫黄島3島それぞれの見どころやそれぞれの島でぜひとも見ておきたい海鳥の紹介や識別ポイント、またそれぞれの島での立ち位置などの解説を行い、18:20から乗船となりいよいよ南硫黄島に向けて出航したのでした。ただ待合室に集合した硫黄島クルーズの参加者数は明らかに少なく、見た目の感じとしては最少催行人員ギリギリかといった印象でした。また船長やスタッフの紹介などを行なう出発式が今回からなくなってしまったのが残念でした。乗船後は船内イベントなどでお楽しみいただきましたが、ちょうど硫黄列島の西側に低気圧が発生し、どうやら台風になるのではないかと心配な夜でもありました。

6日、この日は04:00起床、機材に結露が発生することが予想されたため、双眼鏡をバスタオルでくるんでひとまずデッキに出しておきました。まだまだ薄暗い05:00には早くもセグロミズナギドリが飛び、遠くに南硫黄島が見えはじめた頃には海面を大量のアナドリが飛翔していました。すると驚いたことにアカオネッタイチョウの飛翔が見られデッキ上が騒がしくなっていました。晴天の中、頂に雲がかかった独特の南硫黄島の姿を見ながら06:00頃から周回が始まり、いつの間にかおがさわら丸はカツオドリに取り囲まれていました。そしてよく見ると海面上をヒラヒラと漂うように飛翔する白い鳥の群れが見えました。毎年、それほどの個体数を見ることはできていませんでしたが今年はシロアジサシが多いようで、その白い鳥は全てシロアジサシでした。またアカオネッタイチョウも数多く見られ、最上階に上がるとおがさわら丸の上を飛翔する個体をいくつも見ることができ、同時に複数のアカアシカツオドリの飛翔も見られました。そして大興奮に包まれた南硫黄島周回が終わった頃には船体付近を飛翔するセグロミズナギドリ、シロハラミズナギドリ、クロアジサシが見られ、苦戦が予想されたセグロミズナギドリがしばらく船体に沿うように飛翔してくれたことから、思いのほかゆっくりとその独特の飛翔を堪能する幸運に恵まれました。そして09:00頃、おがさわら丸は次なる目的地である硫黄島に到着しました。硫黄島では太陽の位置の関係から強烈な日差しがデッキに降り注ぎ、水を飲みながらではないと探鳥できないような状況のため、急遽、小笠原海運のスタッフの方が飲み物を販売してくださいました。この日は数は少なめだったもののクロアジサシが飛翔し、アカオネッタイチョウやシロアジサシの姿もあったようでした。ただクロアジサシを間近に観察することはできたものの、主役と考えていたヒメクロアジサシは確証が持てる個体を観察することができず残念でした。そしてこれもすっかり恒例行事となりましたが、硫黄島周回終わりには太平洋戦争末期に激戦の地となったこの地に献花、黙祷を捧げたのでした。そして最後は12:00頃に北硫黄島近海にやってきました。北硫黄島も南硫黄島同様に頂に雲がかかり独特の景観を見せてくれました。周回に入るとオナガミズナギドリ、アナドリが飛び回り、ここでも例年に比べて明らかに数多くのアカオネッタイチョウがホバリングのような独特の飛翔を見せていました。北硫黄島ではとにかく毎回苦労するシラオネッタイチョウを探しました。乱舞するカツオドリやアカアシカツオドリをかき分けるように双眼鏡をのぞきながら、ひたすら特徴である白い尾羽を探しました。シラオネッタイチョウはアカオネッタイチョウとは違い、かなり距離があってもその白い尾羽がはっきりと見えるのです。間近をハンドウイルカが泳ぐ中、ようやく白い尾羽をなびかせて飛翔するシラオネッタイチョウの姿を見ることができ、最後の最後には山頂付近を旋回する別個体も見ることができ、ひとまずほっとして硫黄島3島クルーズを終えたのでした。そしてこれもすっかり恒例となりましたが硫黄島クルーズに乗船している解説スタッフ全員がわざわざ挨拶に来てくださいました。

7日、この日は母島に向かう日です。怪しげな黒い雲がかかる中、朝食を06:00からいただき、ははじま丸乗り場に07:00集合。おがさわら丸に合わせるように新型になったははじま丸は予定通り07:30に出航しました。低気圧から変わった台風8号の影響が心配されましたが予想外に穏やかな航海となり、まとわりつくように飛翔するカツオドリをはじめ、アナドリ、オナガミズナギドリ、そして2羽のオオアジサシなどを見ながら快晴の母島に到着しました。到着後は一旦宿に入っていただいた後、再度集合いただき島内探鳥に出かけました。ただ今回からは探鳥コースをあらかじめ決めた上、探鳥可能な場所を書き込んだ地図を配布して、2つある集落内での探鳥を全面禁止としました。ただそれでも母島観光協会から僅かな距離にある場所ではメグロやハシナガウグイスはいくらでも見られ、その後歩いた道すがらでは2羽のアカガシラカラスバトの姿もありました。また林道ではメグロはもちろん鉄塔に止まっているオガサワラノスリも見ることができました。また各所でパパイヤの実にやってきているメグロが見られ、待っているとメジロやオガサワラヒヨドリに混じってやってくるメグロの姿をじっくりと見ることができました。

8日、台風の影響からなる風の状況を心配していましたが、思ったほどのことはなく05:30にご集合いただいて島内探鳥に出かけました。この日はまず昨日、アカガシラカラスバトを見た場所に行ってみました。すると驚いたことに6羽のアカガシラカラスバトがノコノコと歩きながら登場してしばらくの間、撮影会状態になりました。またトラツグミの姿があったほか、相変わらずパパイヤの実にやってくるメグロやハシナガウグイスの姿を見て11:00から昼食、そしてははじま丸は快晴の母島を12:00に出港して父島に向かいました。この日は母島内の10名ほどの子供たちが父島の小学校で学ぶ、1泊2日の合宿に向かうとのことで、母島の子供たちが岸壁からダイビングして見送りをする珍しいシーンを見ることができ、まるで映画のワンシーンのようで島旅の楽しさを倍増させてくれました。父島到着後は一旦、父島待合室付近にご集合いただき1時間ほどの自由行動として買い物などをしていただき、その後は15:00再集合として帰りの乗船チケット、連絡事項が書かれた用紙を配布していよいよ東京に戻るためおがさわら丸にご乗船いただきました。乗船後はすっかりお馴染みになっている「世界一のお見送り」があるため右舷側デッキに各自集まっていただきました。まずは小笠原太鼓の威勢の良い音が鳴り響き、その後、蛍の光が流れる中、おがさわら丸が静かに岸壁を離れ始めると、父島を拠点にしている各社のダイビング船がおがさわら丸を追うように走り、「いってらっしゃい」と叫びながら大きく手を振る人たちに見送られる時間が続きました。お見送りは20分ほど続き、その後は再び海鳥観察開始となりました。この日はしばらくオナガミズナギドリが多い時間が続き、このツアー最多と思われる15羽ほどのカツオドリがおがさわら丸をしばらく追いかけ、トビウオを見つけては海中にダイビングする姿に歓声が上がりました。また16:45にはこのツアー初となるマッコウクジラがいきなり浮上し、数回噴気を上げる様子が観察できました。

9日、この日は早朝の時間帯が最後のチャンスとなることから04:30起床、05:30頃から観察をスタートしました。もうほぼオオミズナギドリの時間帯かと思われましたが、まだまだオナガミズナギドリが飛び、シロハラミズナギドリの姿も見ることができました。八丈島が近づいた07:45にはアカアシカツオドリの若い個体が見られ、御蔵島近海の10:00頃からはアナドリに混じってコシジロウミツバメが何度も出現して盛り上がりました。その後は三宅島が近づいた10:20からはオオミズナギドリが数を増し、群れで着水していた個体が舞い上がる様子が観察でき、その後は複数のクロアシアホウドリを見ながら11:40に大島を通過し、おがさわら丸が房総半島に差し掛かる12:30に探鳥を終了し、デッキ上にて見られた鳥の確認とトラベルイヤホンの回収を行いました。真っ青だった海の色はすっかり変わり、高層ビルや発着する飛行機が見られてようやく現実に戻るという不思議なクルーズは快晴の中無事終了しました。

私にとって13回目となる硫黄島クルーズ。過去、春や秋にも企画されてきましたが、小笠原ならではの海鳥を観察するという点においてはやはりこの7月がベストであると感じました。秋に企画されていた頃はとにかく台風の発生から海況が悪いことが多く、そのため時期の変更の依頼をしたこともあったほどでした。ただここ数年はなぜか夏季にも台風が発生することが多く、今回も台風7号8号の動向を気にしながらとなりましたが、幸いにも観察中止などの大きな影響なく終えることができました。ただ台風7号の影響は少々あったようで、この航路で秋によく見られているオオシロハラミズナギドリを何度となく見る機会に恵まれたことは印象的でした。メインとなる硫黄島クルーズではヒメクロアジサシを逃したことは残念でしたが、アカオネッタイチョウとシロアジサシの個体数が極めて多かったことが最大の成果でした。特にシロアジサシが乱舞する様子は過去に見た記憶がないほどで驚きました。また条件は良くはなかったもののシラオネッタイチョウも見られ、小笠原海鳥基本5種のアナドリ、オナガミズナギドリ、シロハラミズナギドリ、カツオドリ、クロアジサシが数多く見られたほか、アカアシカツオドリ、そして何かと話題のセグロミズナギドリもしっかりと観察することができました。そして母島では今回から立ち入り制限を設けての探鳥をお願いいたしましたが、皆様からのご理解をいただくことができ心から感謝いたします。おかげさまでメグロやアカガシラカラスバト、オガサワラノスリなどを見ることができ、トラブルなく探鳥を終えることができました。海鳥観察はとにかく経験を積み、慣れることが最も重要と考えております。そのため今後もトラベルイヤホンを使用し、デッキ上の全員でリアルタイムの情報共有を可能にしながら、きめ細かな解説を行っていこうと考えております。またどこかの海域で皆様とご一緒できましたら幸いです。この度は長時間の船旅、お疲れ様でした。

石田光史

シロアジサシ 撮影:赤松博行様

 

オオシロハラミズナギドリ 撮影:宅間保隆様

 

メグロ 撮影:山岸俊文様

 

アカアシカツオドリ 撮影:中村裕一様

 

クロアジサシ 撮影:千賀和彦様

 

カツオドリ(中央)とアカアシカツオドリ 撮影:赤松博行様

 

カツオドリの親子 撮影:宅間保隆様

 

アカガシラカラスバト 撮影:山岸俊文様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:中村裕一様

 

シラオネッタイチョウ 撮影:千賀和彦様

 

ハシナガウグイス 撮影:宅間保隆様

 

カツオドリ 撮影:山岸俊文様

 

カツオドリ 撮影:中村裕一様

 

セグロミズナギドリ 撮影:千賀和彦様

 

アカガシラカラスバト 撮影:宅間保隆様

 

メグロ 撮影:中村裕一様

 

カツオドリ 撮影:千賀和彦様

 

シロハラミズナギドリ 撮影:千賀和彦様

 

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