【ツアー報告】小笠原 硫黄島3島クルーズとメグロの島・母島 2017年9月8日~13日
(写真:カワリシロハラミズナギドリ 撮影:中込哲様)
ここ数年、夏に企画されていた小笠原 硫黄島クルーズですが、今年は7年ぶりに9月となりました。ただこの硫黄島クルーズは定期便ではなく特別航路のため最少催行人員が決められています。要するに参加者が一定数集まらなければおがさわら丸は硫黄島3島には行かないわけです。過去には最少催行人員ギリギリと思われることも数回あり、その約半数をツアーのお客様が占めるということもありました。そのため我々もとにかくたくさんの方にご参加いただけるよう準備を進めていました。その甲斐あって我々としてもなんとか満席となり、たまたま土日に当たったことから島民の方のご参加もいつもよりも多く、さらに墓参教育の小、中、高校生が多数乗船していたことから、結果的には300名超えでの催行決定で硫黄島3島を巡れることになりました。ただ秋は夏に比べて台風のリスクがあり、直前まで天気予報から目が離せませんでした。たまたま1週間前に台風15号の直撃がありましたが出発当日は幸いにも台風の発生がない状況でした。
8日、前日の雨は止み、曇り空ながら蒸し暑い09:30に東京竹芝桟橋に到着して準備に取り掛かりました。集合時間の10:00には多くのお客様がご集合され、資料配布、トラベルイヤホンの使い方などの説明を行いました。この日は10:20から乗船開始となり、おがさわら丸は予定通り11:00に曇り空の竹芝桟橋を出港しました。ひとまずここから3時間は東京湾内を進むことからこの時間を使って挨拶回りや昼食を済ませ、実際には13:30頃から探鳥を開始しました。いよいよ東京湾を出る14:00頃には青空が見え始める中、オオミズナギドリ、アジサシが飛び、大島沖の14:50にはアナドリの姿も見られ始めました。三宅島沖に差し掛かる16:10には快晴の中、頂に雲がかかってはいるものの見事な姿の三宅島を見ることができ、それを背景にオオミズナギドリの群れがいくつも見られました。その後は御蔵島、そして18:45に八丈島沖を通過する間にハンドウイルカの群れとオオミズナギドリの群れ、そしてその中に混じるコアホウドリの姿を見て18:50に観察を終了しました。
9日、04:00に起床して準備に取り掛かりましたが残念ながら外は雷雨でした。デッキの扉が04:30にはオープンしましたが雨はまだ降っていました。ただ日の出が近づいた05:00には雨は止み空は曇りから徐々に晴れてきて朝焼けも見ることができました。06:00頃からはシロハラミズナギドリの姿が多く見られ、中には船首に近づくように飛翔し、翼下面にある黒い鍵状の模様をしっかりと見せてくれる個体もいました。そんな中、07:15には船首方向から秋の代表種の一つであるオオシロハラミズナギドリが現れてどっと盛り上がりました。07:30にはようやく3羽のカツオドリがおがさわら丸にまとわりつくように飛び始め、いよいよ小笠原らしい風景を楽しむことができました。また07:40にはやや距離がある中、セグロミズナギドリが飛び、いつの間にかアカアシカツオドリが飛んでいました。08:00にはデッキがフルオープンとなり、いつの間にかカツオドリは20羽ほどに増えていました。09:15を過ぎるとあれほど飛んでいたカツオドリの姿はなくなり、代わってアナドリ、オナガミズナギドリの姿が目立ってきました。そしておがさわら丸は予定通り11:00に父島二見港に到着しました。到着後は一旦、荷物を倉庫に預けてから父島待合室にご集合いただき、人数確認後に自由行動としました。ただ、このわずかな時間を使ってオプショナルクルーズを企画していましたのでご参加希望の方たちと一緒に南島に向かいました。途中の岩礁にはカツオドリとヒナの姿があり、クロアジサシがスイスイと飛んでいました。幸い海況が良かったことから快適なクルーズを楽しむことができ南島上陸を果たすことができました。南島上陸に際しては腕章をした東京都自然ガイドが同行することが義務づけられており、自然保護の観点から1日100人までしか上陸ができません。南島は沈水カルスト地形という石灰岩特有の特殊な地形で海鳥やウミガメの産卵地として知られ、今回も巣穴の中にいるオナガミズナギドリ、アナドリのヒナの姿を見ることができました。またあまりにも有名な絶景の扇池、そしてヒロベソカタマイマイの半化石などを見て回りました。なお、父島内で自由行動されていた方はカラスバト、ノスリ、ヒヨドリ、メジロ、ウグイス、トラツグミ、イソヒヨドリ、キョウジョシギ、ムナグロなどをご覧になられたようでした。その後17:00からは我々独自の硫黄島クルーズ解説を1時間ほど行い、それぞれの島での注目種とその識別ポイントなどの解説を行い、18:00からは全体の出発式、18:30から乗船し、おがさわら丸は19:00にまずは南硫黄島に向けて出港しました。出港後は船内イベントなどを楽しみながら過ごしました。
10日、この日は03:30起床、強烈な結露が発生することから04:30のデッキフルオープンに合わせて観察機材をデッキに出して結露対策を行いました。その甲斐あって05:00には機材の結露はなくなり05:15には見事な日の出を眺めることができました。出発前は土曜、日曜日の天気予報が芳しくなかったので心配していましたが天気は全く問題ありませんでした。早くも進行方向に独特の形をした南硫黄島が見え、06:00には周回が始まりました。南硫黄島はいつものごとく頂きに雲がかかり独特の雰囲気を醸し出していました。まだ薄暗い海面を無数のアナドリが飛び交い、間もなくしていきなり2羽のシロアジサシがヒラヒラと舞っているのが見えました。その後は乱舞するカツオドリの姿をかき分けるように島を眺め、島を背景に舞うアカオネッタイチョウの姿を堪能することができました。毎回、船の上空までやってきてくれるアカオネッタイチョウですが、今回も2羽が上空を通過していったようでした。またカツオドリの中に混じるアカアシカツオドリの姿もありました。そして南硫黄島を2周したおがさわら丸は次なる目的地、硫黄島に向けて進んでいきました。そして08:50、おがさわら丸は硫黄島に到着しました。硫黄島では太陽の位置の関係から強烈な日差しがデッキに降り注ぎ、水を飲みながらではないと探鳥できないような状況でした。ここでは数は少なかったもののクロアジサシが飛び、その中に混じるヒメクロアジサシの姿を見ることができました。毎回のことですがこの2種はかなり似ている上、光の方向によって黒さに違いが出るため同時に見ることができる状況の中で比較して観察しないとなかなか判断がつきづらいと思いました。そしてこれも恒例行事ですが、周回終わりには太平洋戦争末期に激戦の地となったこの地に献花、黙祷を捧げました。そして最後は11:55に北硫黄島近海にやってきました。この日は大変珍しく北硫黄島の頂きをはっきり見ることができました。ここでは何といってもシラオネッタイチョウです。過去なかなか船に近い場所を飛ぶことがなかったため遠くばかりを見ていましたが、思いのほか近い場所をいきなりシラオネッタイチョウが飛んできたため思わずびっくりしてしまいましたが、アナウンスが間に合って何名かの方はその姿をご覧いただけたようでした。ただしっかりとその姿を見ることができなかったお客様もいらっしゃったので最後の最後まで気を抜かずに観察を続けました。するとチャンスがもう一度訪れてくれ、白く長い尾羽をなびかせて飛翔するシラオネッタイチョウの姿を再度観察することができました。デッキ上では思わず拍手が起こり、硫黄島クルーズ最大の盛り上がりとなりました。その後、おがさわら丸は北硫黄島を離れ一路、父島に向かいました。途中の航路ではカツオドリがまとわりつくように飛び始め、観察を続けると1羽また1羽と純白の羽をなびかせる美しいアカアシカツオドリが飛び始め、最終的には3羽のアカアシカツオドリがダイビングしながら魚を捕るシーンを観察しながら過ごすことができました。硫黄島クルーズでは比較的当たり前に観察できる海鳥ですが、大変に珍しい海鳥であり、またそれをじっくり観察できたことは印象的でした。おがさわら丸は予定よりもやや早い18:20に父島二見港に到着、もう何度も訪れている硫黄島クルーズですが、今回は海鳥たちもさることながら、とにかく島々の美しさが印象的な硫黄島3島クルーズでした。
11日、この日は母島に向かう日です。朝食を06:15からいただき、ははじま丸乗り場に07:00集合。この日は朝から強烈な日差しがありました。おがさわら丸に合わせるように新型になったははじま丸は予定通り07:30に出航。直前には電柱に止まるオガサワラノスリの姿も見られました。この日は幸いにも快晴、ベタ凪の海を進みました。途中、少ないながらもカツオドリが船を追うように飛び、全体的に海鳥の姿は少なかったものの、母島が近づく頃にはクロアジサシ、アナドリ、オナガミズナギドリが見られました。到着後は一旦宿に入っていただきその後再集合して探鳥、途中、スコールのため雨に打たれるシーンもありましたがメグロをはじめ、アカガシラカラスバト、ハシナガウグイス、メジロ、さらには母島では珍しいミサゴ、海岸ではチュウシャクシギ、ムナグロ、エリマキシギ、キョウジョシギ、ダイサギ、コサギなどが見られました。昼食後はさらに広範囲に歩き、再びアカガシラカラスバト、メグロ、メジロ、広場ではムナグロの群れに混じるように採食する2羽のツメナガセキレイの姿があり、観察中にはオガサワラカワラヒワが鳴きながら上空を飛んでいました。また帰り間際に立ち寄った海岸では新たにトウネン、タカブシギの姿がありました。この日の夜はそれぞれの宿にわかれているため一堂に会することはありませんでしたが、それぞれ各宿の雰囲気を味わいながら過ごしていただきました。
12日、この日は11:00にははじま丸乗り場にご集合いただき昼食、その後、ははじま丸にご乗船いただき父島を目差しました。この日も朝から強烈な日差しが照りつけていました。この日もベタ凪のせいか海鳥の姿は少なかったですが、カツオドリ、アナドリ、オナガミズナギドリ、クロアジサシの姿を見ることができました。父島到着後は一旦、父島待合室付近にご集合いただき1時間ほどの自由行動として買い物などをしていただき、その後は15:00再集合として戻って来られたお客様から帰りの乗船チケット、連絡事項が書かれた用紙を配布していよいよ東京に戻るためおがさわら丸にご乗船いただきました。父島出航時にはすっかりおなじみになっている「世界一のお見送り」があるため右舷側デッキに各自集まっていただきました。まずは小笠原太鼓の威勢の良い音が鳴り響き、その後、蛍の光が流れる中、おがさわら丸は静かに岸壁を離れ始めました。そしてその後は父島を拠点に活躍している各社のダイビング船がおがさわら丸を追うように走り、「いってらっしゃい」と叫びながらデッキで大きく手を振る人たちに見送られる時間が続くのでした。お見送りは30分ほど続き、その後は再び海鳥観察開始となりました。今回はずっとそうでしたが、この日も秋とは思えないベタ凪の海をおがさわら丸はすべるように進んでいきました。たまたま2週間ほど前に訪れた際、この区間でオガサワラヒメミズナギドリを複数回観察できたことから期待されましたが、残念ながらその姿はなくアナドリ、オナガミズナギドリ、クロアジサシ、カツオドリを見ながら進み、17:05にはこのツアー初となるマッコウクジラの噴気が確認でき、最後は尾ビレを立てるようにして深く潜って行く行動が見られました。
13日、この日は早朝の時間帯が最後のチャンスとなることから04:00起床、05:15にはデッキから美しい日の出を眺めながら観察をスタートしました。早朝の時間帯に何度かオナガミズナギドリの姿がありましたが、この海域までやってくるとすっかりオオミズナギドリの数が増え、とうとう帰ってきたのだと認識させられます。そして間もなく八丈島という07:20にオオミズナギドリが飛び交う中に混じる小型のミズナギドリ類の姿がありました。距離が比較的近かったことからあっという間に通り過ぎてしまいましたが、ほぼ純白の頭に褐色の体、翼上面にある白い羽軸がはっきり見えたことからカワリシロハラミズナギドリと断定してアナウンスしました。ただ観察していた時間が僅かだったことからしいかりと見ることは難しく、撮影された方のお写真を見ることにしましたが大変珍しい種である上、白色型という珍しい個体でした。その後、10:00にはハンドウイルカの群が跳ねて遊んでくれたことから盛り上がり、最後は着水から飛翔を繰り返すオオミズナギドリの姿を見ながら東京湾の入り口に差し掛かる12:30に探鳥を終了しました。
今年の硫黄島クルーズは新おがさわら丸就航後初であったこと、また7年ぶりの秋の企画だったことから私自信楽しみでした。出発前の天気予報では土日が雨予報でしたが結果的には暑いくらいの晴天になり、海況が良かったことも手伝って過去にないくらい島々が美しく見えた印象的な旅でした。海鳥に関しては秋だったことからシロハラミズナギドリ、セグロミズナギドリ、アカオネッタイチョウの姿が少なかったですが、この時期だからこそ出会えるオオシロハラミズナギドリ、カワリシロハラミズナギドリの出現があり、予想外にシロアジサシが多く、また過去に全く船体によってきたことがないシラオネッタイチョウが比較的近くを飛んでくれたことが嬉しい誤算でした。海鳥観察は慣れが必要でなかなか難しい分野かと思いますが、我々は今後もさまざまな海域でツアー企画し、リアルタイムで海鳥の出現状況を皆様にお伝えするということにこだわった、どこの会社にもまねのできない海鳥観察ツアーを企画して参ります。この度は長時間の船旅、お疲れ様でした。
石田光史