【ツアー報告】春の利尻島 最北の航路と渡りの鳥たち 2017年5月19日~22日
(写真:コウライウグイス 撮影:刈田宏様)
原生花園が花々で埋め尽くされる6月中旬を一般的に北海道のベストシーズンと呼んでいますが、実はその頃は、葉が茂るため森は薄暗くなり、鳥たちのさえずりをかき消すかのようにセミが鳴くことから森林性の鳥たちを観察するには不向きなのです。ただ、北海道でも森林性の野鳥を楽しみたいと企画したのがこのツアーでした。ちょうどこの頃は森は鳥たちのさえずりで溢れ、北海道内、特に北部ではまだまだ渡りの鳥たちが見られることも魅力です。今回は事前の天気予報は概ね良かったのですが出発当日はちょうど道北は強風が吹いていました。
19日、羽田空港にはいつも集合場所の1時間以上前に到着するようにしていろいろ情報収集をしていますが、この日は道北地方には強風が吹いていて稚内に向かう飛行機は条件付きとなりました。また稚内から利尻島に向かうフェリーも欠航ということで明日の航路が心配でした。ひとまず集合が完了したことから予定通り稚内空港に向かいました。ただ飛行機は大きな揺れもなく、心配された引き返しもなく、思った以上にすんなりと稚内空港に到着しました。到着後は観察機材準備をしてから最初のポイントに向かいました。この日は予想以上に暖かく、体をもっていかれそうな強風が吹いていました。まだまだ花が咲いてはいないものの夏鳥たちが揃い初めていて、さまざま期待しましたがあまりの強風で鳥たちは茂みに隠れてしなっているらしく、残念ながらノゴマ、オオジシギの声を聞くに留まりました。そのため場所を変えることにしました。途中にある池では毎年のようにアカエリカイツブリが見られていることから立ち寄ってみると、巣材を運ぶような動作をするアカエリカイツブリのつがいを見ることができました。冬羽個体は漁港などで見ることができますが、夏羽個体は繁殖地に来なくては見られないことから貴重な出会いでした。またキンクロハジロの群れ、ヨシガモのつがいも見られました。木道を歩くと早くも渡ってきたノビタキが愛想よく姿を見せてくれ、遠くをチュウヒが舞っていました。そしてようやく目的のツメナガセキレイの澄んだ黄色の姿が見られてほっとしました。まだまだ動きが読めない感じでしたが繁殖してくれるのではないでしょうか。その後は日本海側にある漁港に立ち寄り、スズガモ、シノリガモ、ウミアイサなどを見てホテルに入りました。ただこの日は深夜になっても強風が吹き荒れ、翌日のフェリーが心配でした。
20日、フェリーに合わせるため07:00前にはフェリーターミナルに到着しました。幸い澄み切った青空、風は完全に収まっていました。フェリーは07:30に出発して利尻島に向かいました。出港して僅かな所からウトウの群れが見られはじめ、夏羽に換羽したシロエリオオハムの姿も見られました。そしてこの航路の目玉であるアカエリヒレアシシギの群れが飛び始め、その中に腹部まで真っ赤なハイイロヒレアシシギの姿も見られました。また上空を飛ぶコクガンの群れなども見られ、見る見る迫ってくる雪化粧した利尻富士を見ながら09:10に利尻島、鴛泊港に到着しました。到着後はホテル前で夏羽に換羽したアトリを見てから近くの林道に向かいました。ここでは今季、クマゲラがよく見られているとのことでしたがこの日は残念ながらその姿はありませんでした。ただコマドリ、ミソサザイのさえずりがこだまするように降り注いでいました。その後は林内を散策し、餌を探しては歌うコマドリの姿をじっくりと観察することができました。一旦昼食とした後は利尻島の各所を巡り、残雪がある利尻島を背景に歌うノゴマの姿を堪能したほか、ノビタキ、ホオアカ、ヒバリ、キアシシギなどが見られました。次に訪れたポイントではツバメオモトの群落を見ながら歩きましたが、いきなり針葉樹のてっぺんにじっと止まっているコウライウグイスの姿があり驚かされました。あまり明るい場所には出てこない鳥ですが、なぜか木のてっぺんでじっとしていてくれたため時間をとって観察することができました。やはり道北はまだまだ渡りの時期であることを実感する出会いでした。また池では羽を休めているクサシギの姿もありました。その後は有名な観光地であるオタトマリ沼、さらには姫沼を巡り、オシドリなどをさらっと見てから再び林道に向かい、アカゲラ、コマドリ、アオジなどを観察して探鳥を終了しました。
21日、早朝04:30から探鳥に出かけました。早朝は鳥たちの歌声はさらに賑やかさを増し、コマドリ、ミソサザイ、アオジ、ウグイスなどの声が響いていたほか、特徴的なアオバトの声も聞こえました。この日はクマゲラの声が響き、どこからともなくやってきたクマゲラが鳴きながら上空を飛翔してくれました。また再び枯れ木に止まって歌うコマドリをじっくり観察する機会に恵まれました。また帰り間際にはコサメビタキ、マヒワ、また針葉樹のてっぺんで歌うコマドリの姿がまたまた見られました。朝食後は別のポイントを歩き、ここでもクマゲラの姿が見られたほか、オシドリ、ミサゴ、ゴイサギ、カイツブリ、クサシギの姿がありました。少々時間があったことから最後は再び林道を歩き、地上で餌を探すアオジ、クロジ、ドラミングするアカゲラなどを見てから昼食をいただきました。現地ガイドさんおすすめの「鰊蕎麦」をいただきましたがこれが大好評で今後のこのツアーの一つの看板になるのではないかと思いました。この日は残念ながら曇り空で時より小雨が降る中でしたが、利尻富士は美しく見え、12:05に出港したフェリーからは見る見る離れていく利尻富士を最後まで眺めることができました。帰りの航路では数多くのハシボソミズナギドリが見られたほか、夏羽のシロエリオオハム、ウトウも見られました。稚内港に13:45に到着後はバス内ゆっくり休みながら3時間ほどかけてホテルに到着しました。
22日、04:00に出発して探鳥に出かけました。天気予報は曇りから晴れとのことでしたが出発時は小雨が降っていました。ただ現地に到着した頃には雨は上がり、朝食後はやや空が明るくなる中で探鳥を開始しました。駐車場付近ではいきなり真っ赤なベニマシコが現れ、森に入ると木のてっぺんでキビタキが軽やかに歌っていました。大音響のさえずりながら、なかなか見つからなかったコルリは新緑の枝先で歌っているところを観察することができ、付近では「チヨチヨ ビー」とセンダイムシクイも歌っていました。さらに進むと地上で餌を探すマミチャジナイの姿があり、ここでも渡りの一端を見ることができました。その後はやや移動してミズバショウやエゾエンゴサク、ニリンソウが咲き乱れる小道を歩き、ディスプレイフライトするオオジシギ、針葉樹に止まるツツドリが見られ、アカハラやクロツグミのさえずりを聞くこともできました。一旦、駐車場まで戻ると幸運なことにヤマゲラがすぐ脇の木に飛んできて止まり、ドラミングを始めました。慌ててバスを降りて観察を始めましたが飛んでしまい、やや離れた広場に降りました。ヤマゲラは地上で餌を探すことが多いため探してみるとシラカバの根に取り付いて採食をはじめました。かなりしっかりと餌を探していたことから思いのほかゆっくりとその姿を観察することができ、観察していると3羽のツグミ、さらにはマミチャジナイも現れて地上採食をしていました。やや時間があったことから最後は再び林内を歩き、ニュウナイスズメの姿をじっくり見ることができたほか、地上に降りているアカハラ、突然現れて飛び去って行ったハリオアマツバメ、そして最後は人気のある真っ赤なベニマシコがさえずっている姿をじっくりと観察して終了しました。
今回は道北地方の強風により稚内に到着できるのかという不安の中でツアーがはじまりましたが無事到着することができ、利尻島に渡るフェリーも1日違いで欠航を免れることができ幸運でした。原生花園では強風のためあまり成果がありませんでしたが、夏羽のアカエリカイツブリをはじめ、ヨシガモ、ノビタキ、ツメナガセキレイ、利尻島では渡り途中と思われるコウライウグイスに出会うという感動的な出会いがあったほか、クマゲラ、コマドリ、ノゴマ、オシドリが見られ、ヤマゲラ、コルリ、キビタキ、ベニマシコ、ツツドリ、ニュウナイスズメなどの常連たちのほか、渡り途中と思われるマミチャジナイにも出会え、4日間で79種の野鳥たちに出会うことができました。利尻島でお世話になったみなさん、そしてご参加いただきました皆様に感謝いたします。この度はお疲れ様でした。
石田光史